君、花海棠の紅にあらず|第29話・30話・31話・32話のあらすじ

あらすじ

『君、花海棠の紅にあらず』のあらすじ第29話~第32話(全49話)

こちらの記事では『君、花海棠はなかいどうべににあらず』第29話~第32話までのあらすじとネタバレをまとめています。

今回から新たに登場する人物

林丹秋リン·ダンチウ:寒香社の役者。師叔は商細蕊

第29話 勝利への畏怖

梨園一の役者を決める人気投票は商細蕊、寧九郎、姜登宝、当て馬の四喜児による決選へ。だが勝利を予想された商細蕊は辞退すると言いだす。商細蕊にとって永遠の1位は心の師である寧九郎。だが、自らが勝てば寧九郎の衰えを受け入れざるを得ない。商細蕊、寧九郎どちらも不在の梨園会館では、開票結果が発表されようとしていた。

寧九郎が出ると聞いた四喜児は、当て馬役とも知らずに承諾する。息子の登宝は寧九郎が有力だと見ているが、姜栄寿は商細蕊に嫌がらせをしたいだけで、四喜児を当てにはしていない。それに姜栄寿は、四喜児と親しくないから黒幕だと思われる心配もない。

北平時報社に杜洛城の姿があった。洛城は商細蕊が優勝すると信じて疑わない。名簿の中で決勝に残るのは寧九郎だと予想している。長く休んでいたが、必ず残ると断言する。薛社長は陳紉香が入ると予想。新聞に”陳先生が長春・北平・上海で大成功を収める”と載っていたからだ。これを聞いた洛城は、やらせ記事だと決めつける。あきれた薛社長は別の記事を読む。”商細蕊の新しい演目は時代を先取りし若者の審美眼や好みに合っている”。洛城は素晴らしい文章だと自画自賛する。そして姜栄寿も入ると付け加える。姜一族だから必ず入るという見解に薛社長もうなずく。

この頃、范漣は水雲楼にいた。商座長が最終選考の4人に残ったと小躍りして状況を知らせる。寧九郎と姜栄寿は当然残ったが、残りの1人は四喜児だと教える。座員たちは驚くが、細蕊は寧九郎が入った喜びの方が大きい。義父でも勝てなかったのだから、優勝は寧先生だと言い切る。寧九郎になら負けても構わないと言う細蕊に、漣や座員が檄を飛ばす。

投票の宣伝をする水雲楼の座員たち。みんな必死に商細蕊に入れるよう呼びかけている。漣は大きな看板を作った。それを見た細蕊が、看板を下げろと飛んで来て、参加をやめると言い出す。5年に1回しかない投票だと鳳台は止めるが、細蕊の中では寧先生が1位で、もし自分が負ければ落ち込むし、万一勝ったらどんな顔で寧先生に会えばいいかと悩ましい。義父の代わりに1位になれと鳳台は勇気づけるが、寧先生とは戦いたくないと逃げてしまう。

斉王は、復帰して1回しか歌ってないのに推薦された寧九郎を誇らしく思っている。これまでの優勝者は寧九郎か侯玉魁で、商菊貞はいつも2位どまりだった。姜栄寿は会長になってから1回だけ優勝している。斉王は商細蕊という若者が登場したことが喜ばしい。新聞を買って投票してやろうと言う斉王に、寧九郎は商細蕊に投票するよう念押しする。

新聞を買う長蛇の列の中に変装した商細蕊がいた。寧九郎に10枚買う。隣の客が負けじと商細蕊に20枚買う。残りを全部買い占めたい細蕊だがお金が足りない。水雲楼に戻り、コソコソと印鑑を持ち出す商座長。様子を見ていた小来が止める。二旦那のためだと勘違いした小来は、二旦那はお金がかかると今までの不満を商座長にぶつける。商座長は二旦那に渡すのではないと急いで出ていく。

第5回目となる梨園の最高峰を決める開票式がついに始まった。鈕白分が1票ずつ読み上げていく。しかし、その場に商細蕊と寧九郎の姿はない。

商細蕊と程鳳台は紫禁城にいた。梨園会館に行かないのは、勝つのが怖いからだと細蕊が明かす。以前は義父が怖かったが、ある日、義父の衰えに気づいた。老いに負けた義父。時は誰にも止められない。鳳台が言う。天は万物に期限を与え、期限がくれば誰しも自然に衰える。そして寧九郎も例外ではないと。しかし細蕊にとって寧先生は心の師だから受け入れられないのだ。

梨園会館で最後の1票が読み上げられる。水雲楼の商細蕊に入った。投票が終わり、鈕白分がそれぞれの票数を読み上げる。琴言社の寧九郎は合計3586票だった。寧九郎の人気は20年変わらない。長年休んでいたが付き合いも実力も侮れない。水雲楼の商細蕊も同じく3586票だった。杜洛城と范漣が共に喜ぶ。隆春班の姜栄寿は合計1257票。雲喜班の四喜児はたったの1票。笑いが起こる。
鈕さんが今回の優勝者を発表しようとすると、数えなおせと騒ぎ出す人達。商細蕊が票を集めたのが気に入らないらしい。これを杜洛城が止めに入るが、火に油を注ぐ。大混乱の中、寧九郎の代理人が現れ、まだ1票が残っていると騒ぎを鎮める。その1票は寧九郎に入ると見なした姜栄寿が天意かと不敵な笑みを浮かべる。代理人が台上へ上がり票を渡す。票を見た鈕さんが戸惑いながら優勝者を発表する。優勝は商細蕊だ。

梨園会館に到着した細蕊は息をのむ。代理人が今の票以外に細蕊への贈り物があると、赤い布で包まれたものを台上へ運び込む。寧先生の言伝を伝え、幕を取る。そこには”梨園の最高峰”の文字。大拍手が起こり、記者がシャッターを切る。梨園の主人の交替を寧九郎は最初から決めていたんだなと薛社長が呟く。鳳台が商座長に寧九郎の扁額へんがくを受け取るよう促すが、寧先生はまだ衰えていないと立ち去ってしまう。

翌日、水雲楼に寧先生がお祝いにやって来た。細蕊は昨夜から祖師像の御前で寝ている。寝ている細蕊を寧先生がそっと起こす。まだ夢の中だと思っている細蕊は、祖師様と先生の話をしていたと寧先生の足にまとわりつく。現実と虚構が一緒になる細蕊は、骨の髄まで役者なのかもしれない。夢だと思っている細蕊に寧先生が語りかける。寧九郎は老いを自覚している。幼い時から宮中で育てられたは寧九郎は、舞台上の大勢の人生を体得できない上、芝居に自分の解釈を加えることも出来ず、古い歌しか歌えない。しかし、何度も歌って飽きている曲でも、宮殿の壁を越えなければ更なる上を目指せない。商細蕊に出会えたことが幸いだった。細蕊は子供の頃からしつけに委縮せず、どんな芝居を学んでも質問攻めにしては自分の解釈で演じようとし、失敗も罰を受けるのも恐れなかった。北平に来てからは一層大胆になり、どんな演目も好きなように変えた。彼らこそ未来なのだと分かった。寧九郎にも京劇にも細蕊が必要だと伝える。何の話か分からないと言う細蕊に、忘れなければいつかわかる日がくると諭す。

やっと目覚めた商座長。扁額があることに驚く。寧先生が届けてくれたと小来が教える。細蕊が鳳台を呼び、扁額の上に寝させると、寧先生の扁額がどれほどありがたいか言い聞かせる。この部屋に細蕊の宝が全部ある。祖師様、義父、寧先生の扁額、そして二旦那。そう聞いて感動した鳳台が細蕊を見つめる。

第30話 最愛の妹

梨園の頂点に立った商細蕊の元に広告の依頼が殺到する。気が進まない商細蕊だったが、程鳳台のために不慣れなことを引き受ける。そんな中、劇楼に来ていた察察児が程鳳台に憎しみを抱く者に誘拐される。妹を守るために究極の手段を選び、苦渋の決断をする程鳳台。そんな程鳳台の元に、范湘児が捜し出した女性が会いに来て…。

商細蕊の優勝を祝う范漣。細蕊が頂点に立ったお祝いに、連続公演を行うと群衆に知らせる。観劇料は半値だから早く買わないと売り切れると急かす。

范漣が広告依頼の話を持ってきた。優勝した細蕊に、多くの会社から依頼が殺到したのだ。一番金持ちそうな石鹸製造に決める。報酬を弾んでもらうつもりだ。吹っ切れた細蕊は、金のためなら何でもやると意気込む。商細蕊が広告に出てくれるとは意外だった漣。鳳台のために稼ごうと必死な様子に、あんなに単純だと人から付け込まれると心配する。しかし、広告や録音は労力を使わず稼げる仕事だ。鳳台は受けて当然だと、金を遠ざける細蕊の性格を矯正させたい。

そこへ警察局がきたと知らせが入る。観客に知られてはデマになるので、誰も通さないよう指示し、察察児を漣に託して鳳台は出ていく。絡子嶺の二親分が脱獄したと警察官が伝える。二親分は鳳台を恨んでるので注意が必要だ。芝居は始まっていた。1人で観劇している察察児の所へ二親分が来る。ここの雑用係と偽って、鳳台が呼んでいると察察児を外へ連れ出す。その様子を細蕊は芝居をしながら見ていた。

鳳台が戻り、察察児がいないことに気づく。慌てて外へ走る鳳台。すでに細蕊が助けに来ていた。衣装姿のまま二親分に槍を向けている。察察児は二親分に羽交い絞めにされている。以前、隠れ家に乗り込んだ細蕊に痛めつけられた二親分。細蕊を思い出すと察察児に銃を向ける。妹を放せと叫ぶ鳳台。二親分が銃を発砲して威圧する。鳳台は二親分をなだめるが、銃を降ろそうとしない。激情しており危険な状態だ。察察児を放すよう説得を試みる。鳳台はゆっくりと二親分との距離を詰めていく。細蕊が真を見計らって槍で銃を叩き落し、二親分を縛り上げる。怒りが頂点に達した鳳台は察察児を細蕊に頼み、拾い上げた銃を二親分に向ける。尚も挑発し続ける二親分。鳳台が引き金に手をかけると、細蕊は察察児の耳を塞ぐ。銃声と共に察察児が悲鳴をあげる。

ショックが癒えない察察児に付き添う鳳台。運転手の葛さんが旅券を揃えたと知らせに来る。察察児は香港行きを拒否する。察察児を手放したくない鳳台は先送りしていたが、今は一刻を争う事態だ。北平は鳳台の商売柄、常に危険が付きまとう。全てが落ち着いたら必ず迎えに行くと約束する。范湘児の部屋の外では葛さんが跪いていた。察察児の香港行きの話も内緒にされていた。姉の美心は、香港へ行ってくれたと喜ぶ。そこに韓総監が、奉天で捜した人物を案内する。

水雲楼で食事をとる一座。鳳台は察察児が心配で食欲がない。離れてまだ半日しか経っていない。クラクションの音を聞いて外へ出ると、韓総監が客人を連れていた。その女性が春萱の弟子だと名乗る。そして師匠・春萱の話を聞かせる。師匠の引退後、春萱の名を引き継いだ。師匠は今も舞台に上がっているが、長く演じる体力はない。今度、舞台から完全に引退するので、記念に作ったレコードを差し上げに来たという。差し出されたレコードを鳳台が受けとる。静かに眺め、微笑む。

弟子を見送る鳳台は、何かあれば力になると伝える。いい一座を紹介できると話す鳳台を遮り、舞台に立つのは自分が楽しむためだと師匠の話を持ち出し断る。その様子を見ていた細蕊は、自信を持ち、堂々として、春萱もきっとよい役者だったはずだと思いを伝える。その後、鳳台と細蕊はレコードに耳を傾ける。

生涯、人を愛し恨んだ春萱。人気役者になり、名家の子息の側室にもなった。子供を産み育て、多くの弟子もとった。人生を十分に謳歌し全てやりきったが、母親として心残りがあった。そこで息子を探して母を覚えてるか聞いて欲しいと頼んだ。覚えていたら春萱からの贈り物だと、レコードを息子に渡すよう託した。死んだら芸名を受け継ぐよう頼まれた弟子。師匠は今も元気で舞台に立っていると鳳台に伝えた。真実を知らない鳳台は、懐中時計の母の写真を見てほほ笑む。

程家に電話が入る。上海の製綿工場で機械が爆発したという。范湘児は弟に相談するが頼りにならない。お金を渡して穏便に済ませようとする。湘児は、爆発の原因の究明と、負傷者の医療費の負担、新聞社の対処法を指示し、他人任せの弟に呆れる。

スーツ姿で写真撮影をする商細蕊。固くなる細蕊はポーズもぎこちない。鳳台が蓄音機を用意させる。寧九郎と侯玉魁の「四郎探母」が流れると笑顔になる細蕊。動きが自然になる。思い通りの写真を撮れた撮影者が、細蕊に記念撮影を提案する。急いで着替えた細蕊は、背景の絵が花海棠の木だとはしゃぐ。2人で写真に納まる。

范漣が水雲楼で鳳台の帰りを待っていた。助けてほしいと鳳台に泣きつく。上海の製綿工場の噂を聞いていた鳳台だが、湘児に追放され、范家のことには関われないと突き放す。

遅くまで仕事をする湘児を心配した程美心がお粥を持ってくる。帳簿を見て鳳台を尊敬したと湘児が明かす。范家は一時的に程家を救っただけで、鳳台が程家を再興した。鳳台には度胸と商才がある。能力がなければ持参金も消えていたと、湘児は自分の間違いを認める。今の言葉を鳳台の前で言えば仲直りできるのにと美心が呟く。

上海の屋敷に戻った鳳台。大階段を上りながら悲しい過去を思い出す。大事なピアノを持ち出され、使用人たちが次々と出ていった。最愛の母までも出て行ってしまった。ある部屋のドアを開け、中に入る。父と母が言い争う過去が思い出される。額に入った家族写真をそっと撫でる。

第31話 わだかまり

程鳳台の出張中、范湘児は水雲楼を訪れ、商細蕊に文字を習わせ、食事制限をさせる。窮屈さに耐えられず逃げ出してしまう商細蕊だったが、寧九郎の代わりに上海の梨園会館で行われる宴に出席する。迎えに来た役者·林丹秋との再会を喜ぶ商細蕊。しかし、商細蕊は林丹秋が妹のために役者を辞めることがどうしても解せなかった。

韓総監が范湘児に帳簿を見せる。その帳簿は二旦那しか内容を把握してない。目を通した湘児は、夫が水雲楼にかなりの額を使っていることを知る。水雲楼は金食い虫だと水雲楼へ向かう。

部屋へ通された湘児が帳簿を見せる。字は少ししか読めないと言う商座長に、そんな人が座長を務めてるのかと大げさに驚いてみせる。帳簿は程鳳台が管理するので、商座長は芸に専念していいことになっているが、鳳台が戻るまで放置するのかと批判。湘児は役者が芸を修めるのと同じように、字を学べば帳簿も理解できるようになると説得する。字の練習をする商座長を監視する湘児に、指示通りにしたと連絡する春杏。一座に節度をもってもらうため、役者の管理を始めていた。敏腕の鳳台がなぜ制御できないのかと湘児は不思議がるが、役者は難敵で家業の使用人と同じようにはいない。鳳乙が泣き始めた。湘児が代わってあやしていると、小周子の歌を聞いて泣き止む。数日で愛好家に育ったと湘児が皮肉を言う。部屋へ戻ると、商座長の姿が消えていた。

寧九郎のところへ逃げた商細蕊。これで何度目かと聞かれた細蕊は、姜栄寿は老人で奥様は女性だから殴れず、逃げる以外なす術がないと答える。寧先生は上海の梨園会館から届いた宴の招待状を見せ、細蕊が代わりに出るよう頼む。上海北駅に着いた細蕊。林丹秋が出迎えに来た。久しぶりの再会を喜び「師叔」と丹秋が抱き着く。梨園の頂点に立った細蕊は上海でも知名度が高い。

斉王が菜園の手入れをしていると、寧九郎が手伝いにやってくる。役者を辞めるのかと止める斉王。細蕊と共演したあと復帰すると期待したが、家に籠りっぱなしで細蕊も追い出した。細蕊は芸のために荒波にもまれるべきだと考えている寧九郎。読書を好まないので、外で見聞を広めるしかない。経験を蓄えた後は更によい役者になると期待を寄せる。寧九郎はずっと皇宮にいたが、皇宮は特殊な場所で、宮中で織りなされる人生模様は民ではとても見聞きできないのだ。

梨園会館についた細蕊。丹秋が三福班の劉座長と薛先生を紹介する。上海梨園の唐会長は、細蕊を瀟洒しょうしゃで佇まいが美しいと褒める。寧九郎が才を認めた人材だからと寒香者の王先生が加わり、師叔という言葉を聞くと師侄ししつを思い出すという。北平の原小荻は王先生の師侄で同門だと明かす。

寧九郎が舞台に上がったという話は上海にも届いていた。今回は欠席となったが、そもそも寧先生を招待したのは舞台に出てもらうためで、いわば南北梨園の共演というところだ。王先生が1曲披露することなり、演目を細蕊に選ばせる。原先生の先達だと聞いた細蕊は、原先生の芸は崑劇の舞台で初めてみたからと崑劇をお願いする。王先生の歌を聞いて、細蕊が子供の頃を思い出す。親の手を放し、舞台へ駈け寄って崑劇に熱中する少年の細蕊。

王先生の歌に涙を流す細蕊。どうしたと丹秋が問いかける。細蕊は最高の牡丹亭が聴けて、上海に来てよかったと王先生に杯を捧げる。王先生の芸なら全盛期の原先生でも歯が立たないと高く評価する細蕊は、最大の劇楼で高値の券が売れると断言する。しかし、王先生は、崑劇はすでに衰退しており、客は入らないと否定的だ。崑劇が衰退したのは演じるものが減ったせいで、名優が揃えば民衆は見るはずだと、細蕊は南方発祥の崑劇で共演しないかと「断橋」を提案する。

細蕊を見送る王先生。林丹秋を迎えにきた女性が王先生に挨拶する。誰かと尋ねる細蕊に、丹秋の妹だと教える。丹秋は一人っ子だと聞いていた細蕊。女性は振り返ると、兄をいつまで舞台に立たせる気かと王先生に詰め寄る。あと2週間だけと言う王先生に、来月兄と故郷へ帰るから、それで役者は終わりだと言い捨てる。なぜ辞めさせると口をはさむ細蕊。その人が商細蕊だと聞いた女性(=愛玉)は、自分は名家出身で役者とは考えが異なると吐き捨てる。不条理な女子だと細蕊はイラつくが、梨園に偏見がある人間もいるから相手にするなと王先生がなだめる。口論する価値もないと、細蕊は鳳台の屋敷へ向かう。

程鳳台が顧客を見送っている。鳳台の姿を見つけた細蕊は走って抱き着き、写真を渡しに来たと現像した1枚を渡す。裏には”知音へ”と書かれている。北平に戻ってからでも良かったと言う鳳台に、上海の役者たちと舞台に立つと伝え、数日部屋を借りたいと申し出る。

妹に謝る林丹秋。なかなか役者を辞めない丹秋に、役者に未練があるからだと妹が責める。丹秋は最後の舞台にすると誓いを立てる。そこへ待ち伏せしていた六兄貴たちが声をかける。丹秋は妹を先に帰らせる。金をせびる六兄貴。妹は金持ちだなと丹秋に脅しをかける。危機を察した丹秋は、最後の有り金を渡す。

丹秋に妹が見つかったと聞いた細蕊は、本当に役者をやめるつもりなのかと問いかける。丹秋の芸は平凡だが他の役者よりは数段格上だし、若いのに辞めてはもったいない。そこに妹が差し入れを持ってきた。細蕊があの妹はどこから来たと役者に尋ねる。詳しくは知らないようだが、突然妹が妹が現れ、林丹秋の借金を返したという。丹秋は派手に金を使っていたが、妹が来てからは、一切遊ばず酒も付き合わなくなったそうだ。

細蕊が林丹秋の妹は傲慢だと鳳台に不満をぶつける。丹秋は舞台を愛してるのに、妹はこの生業を見下している。小さいころから修練を積んだ丹秋はようやく芽が出たところなのに、妹のために辞めるなんて勿体ない。しかし、妹がいる鳳台にとっては何も不思議はない。役者業より妹のほうが大事だと理解できる。細蕊が自分にも妹はいると言い出す。記憶があいまいなので今までその話をしなかっただけ。何度も売られ続けた細蕊は、実の親の顔さえ覚えていない。細蕊を見つめる鳳台は思いめぐらす。

第32話 想起

林丹秋の妹だという女性。その顔を見た程鳳台は驚き、また、妹も顔色を変える。そして、妹の首飾りにある玉を見て驚愕する商細蕊。その日の夜から、商細蕊は幼い日の夢を見続ける。公演を終えた商細蕊は翌朝、林丹秋の妹に会いに行く。表向きは林丹秋の説得を頼むためだったが、真の目的は彼女の家族·曽家について聞くことだった。

林丹秋が六兄貴に金を渡している。また借金をしたのかと曽愛玉は心配するが、賭博で負けた六兄貴に金を貸しただけだと丹秋はごまかす。丹秋は舞台が終わったら必ず役者を辞めると約束し、雲南に戻ったら実家を整理して、愛玉に入り婿を探すという。

雨が降る中、程鳳台が商細蕊を車で待っている。出てきた細蕊に声をかけ、丹秋も車に誘うが、妹が傘を持ってくるからと遠慮する。妹を紹介された鳳台は目を見張る。一方、細蕊は愛玉の首飾りに目が釘づけだ。車の中で首飾りの玉を握りしめる細蕊。あの女性が曽愛玉だと鳳台が声をかけても上の空だ。范漣が囲った踊り子で鳳乙の実母だと細蕊に知らせる。その夜、細蕊は鳳凰の玉を握りながら眠りにつき、子供の頃の夢を見る。親とはぐれ、必死に探す幼い細蕊。

商先生のおかげで客席の6割が埋まったと喜ぶ王先生に対し、たった6割かと細蕊は不満げ。それでも崑劇では数年ぶりの盛況だ。出番になり、崑劇「断橋」を披露する2人。商先生と王先生の本格的な崑劇は大好評だ。蘭心劇場は拍手喝采に包まれる。しかし、細蕊は浮かない顔だ。観客に違和感があり、拍手をする場所が違かったと指摘する。歌を間違えて馬鹿にされたのかと思ったと言う細蕊に、王先生が打ち明ける。寧先生との共演が成功したのは劉漢雲が崑劇好きで、誰も劉を怒らせたくないから。崑劇の衰退は止めようがなく、役者の力量とは関係ないという。細蕊は、観客が理解できるまで崑劇を歌ってやると意気込む。

鳳台が食事に誘うが、丹秋は引っ越しの準備があると辞退する。迎えに来た曽愛玉を目で追う細蕊。商座長でも美人から目を離せない時があるのかと冗談を言う鳳台にムキになる。その晩、細蕊はまた同じ夢を見る。親から手を離し、舞台へ駆け寄る細蕊。舞台に没頭し、気が付いた時には誰もいなくなっていた。翌朝、朝食の時間になっても細蕊が出てこない。返事もないので鳳台が部屋へ行ってみると、細蕊の姿がない。

曽愛玉を待ち伏せする細蕊。林丹秋に役者を辞めないでほしいと切り出すが歯切れが悪い。十数年の努力を捨てるのはあまりに惜しいと伝える。芝居しか頭にないと范漣から聞いた愛玉だが、私生活に口出しされて心外だった。曽家には ”子弟を梨園に入れるな” という家訓がある。子供の頃から役者が何より嫌いな愛玉は、幼い頃に家族で出かけた時、兄が芝居に見惚れてはぐれてしまい、それきり十数年も行方知れずだと明かす。それ以来、銅鑼の音を聞くだけで 憎しみで胸が張り裂けそうになる愛玉。曽家は没落し幸せは崩れた。家族は兄と愛玉しか残っていない。兄が消えた後、母は病に倒れ、その翌年死んだ。そして愛玉が16歳のとき父も帰らぬ人になった。

話を聞いて今にも泣きだしそうな細蕊は、もしも愛玉の兄が役者を続けたいと言ったらどうするか問いかける。実は丹秋から役者を辞めると言い出したそうだ。上海は華やかに見えるが、少しの過ちで足を踏み外す。そんな街にいるより故郷で暮らすことを望んだという。

細蕊が愛玉の首飾りを褒める。その玉は曽家の家宝だ。兄と遊んでるときに割ってしまった愛玉。曽家の運が断たれることがないよう、祖母はお守りとして割れた玉を兄妹に与えた。しかし、離別と流浪の苦しみを兄が味わうことになり心を痛めている。丹秋はその玉を無くしたと愛玉に告げていた。

曽家に興味を示す細蕊に疑問を抱く愛玉。ただの好奇心だとごまかし、鳳尾の名前が鳳乙に変わったと教える。愛玉は育ててくれている鳳台に改めて感謝を示す。子供を案じる愛玉に、水雲楼で面倒を見てるいると伝える。

雨の中、傘もささずに歩を進める細蕊。屋敷に戻った細蕊は鳳台に、曽愛玉は実の妹だと打ち明ける。首輪を見せ、愛玉の玉と合わさりそうか見てきたと伝える。細蕊のは鳳凰の頭で、愛玉のは尾だ。それが事実なら、鳳乙は細蕊の実の姪になる。では林丹秋は?細蕊に兄や弟がいた記憶ない。愛玉はなぜ丹秋を兄だと思ったのか?細蕊は鳳台に確認を頼む。曽愛玉は丹秋の借金を六兄貴という高利貸しに返している。家族のためなら命をかけても惜しくないと愛玉が言ったのを思い出した鳳台。愛玉が子供と引き換えに金を求めたのは丹秋の借金を返すためだったのか。朝一番に警察の友人に聞くという鳳台に電話器を渡す細蕊。最近昔の夢ばかり見て落ち着かない細蕊は、明日まで待てないのだ。

翌日、居場所を教えてもらった2人は六兄貴を尾行するが路地裏に撒かれてしまう。細蕊が4人を相手にするが、六兄貴に棒で顔を殴られてしまう。怒った鳳台は銃を取り出し、六兄貴の額に当てる。観念した六兄貴は林丹秋のことを話し出す。丹秋は賭博好きで六兄貴から借金をした。曽愛玉を知ったのは2年前。一目で良家の娘だと分かり手下を近づけると、生き別れの兄を探しているという。丹秋と愛玉は一晩話し合い、兄妹と認めあった。愛玉は返済分は実家で用立てできるから、戻ってくるまで兄に手を出すなと忠告したという。借金の額は数年分の利子が積もって10万元ほどだった。

憤慨した細蕊は、林丹秋を殺して自分が兄だと明かすつもりだ。鳳台は、愛玉のこの2年間の想いや時間が無駄だったと伝える気かと引き留めるが、細蕊は聞き入れず駅へ向かう。細蕊は愛玉を気遣い、話があると丹秋をトイレへ連れていく。ドアを閉めるやいなや丹秋に暴行を加える。助けを求める丹秋に、悪事を犯したと首輪を投げつける。玉に見覚えがある丹秋は、細蕊の立場を理解する。借金があまりに多くて逆らえなかったと言い訳をする丹秋に、殴ったのは妹を騙したからだと愛玉の2年間の苦労を聞かせる。家を売って工面したと信じていた丹秋は、まさか金持ちの子供を産んだ手切れ金だとは思いもよらなかった。子供は水雲楼にいて、程鳳台が10万元を払ったと聞いて泣き出す。騙すつもりはなかった丹秋。幼い頃のことは覚えておらず、師匠いわく丹秋は文人の家の子で長男だった。愛玉から聞いた話も全く同じだった。だから愛玉を妹だと信じた。妹が自分を覚えていて、家族ができて胸が温かくなったと細蕊に訴える。

タイトルとURLをコピーしました