『君、花海棠の紅にあらず』のあらすじ・ネタバレ第45話~最終回(全49話)
こちらの記事では第45話~最終回のあらすじとネタバレをまとめています。ネタバレを見るには をタップしてください😃
今回から登場する新たな人物
盛子晴:范漣の婚約者。衣装作家。
第45話 別々の道
察察児が家出したことで憔悴する程鳳台。耳に入ってくる情報に藁をもつかむ思いで妹を捜す程鳳台は、金づるとして利用されてしまう。一方、行方が分からないままの察察児は、新聞で意志を発表する。程鳳台は北平を離れることを決意し、商細蕊に同行を望む。そんな中、程鳳台は坂田大佐から留仙洞の輸送路について話を持ちかけられる。
商細蕊は人物に対する理解がやや浅く、それでは話の真髄を表現できなかった。しかし、ついにその機が熟した。いろいろな経験を積んできた細蕊に演じられない役はない。そこで杜洛城は同伴している妓女2人に「照花台」を歌わせる。2人は幼いころから妓楼 ”上林仙館” におり、小鳳仙についてよく知っているのだ。
水雲楼に戻ると、程鳳台がオンドルにくるまって細蕊の帰りを待っていた。察察児は置手紙を残していたという。”考えが異なるから縁を切る 捜さなくていい” 。范湘児と程美心は密に捜させていると聞き、細蕊は次のように推測する。新聞に載せて奥様が怒った。二旦那は奥様が名節を重視するあまり妹を捜す最良の機会を逃したと思っている。でも奥様は察察児の家出は二旦那が軍とつるむからだと思っている。そう聞いた鳳台は湘児が言うことまで当てた細蕊に驚く。細蕊に言わせると、裕福な家の女性は異なるように見えて、心のひだは似たようなもの。大勢見てきたが察察児は特別で、自分の考えを持っているという。考えを持ちすぎたと鳳台が反論する。家出のあと部屋を調べたら、共産革命に関する本が出てきた。察察児は社会のために戦う気なのだ。そこに、日本兵が捕まえた娘の中に察察児と似た子がいるらしいと知らせが入る。
北平駅で日本兵が良家の子女たちを妓楼に売ろうと列車に入れている。察察児を探したがいなかった。同国人のよしみで助けてとしがみつかれた細蕊に銃が向けられる。間に入って細蕊を助けた鳳台が気を失う。
病室で鳳台の看病をしてるかと思いきや、細蕊は白髪を抜いている。目が覚めた鳳台に、白髪があったと見せる。先ほどの子女たちは鳳台が金で解決していた。察察児の失踪に乗じてゆすってきたようだ。鳳台はもう察察児を探さないという。嫁に行ったことにすると涙を流す。
察察児は延安にいた。曹貴修の知り合いの情報によると、本人が戻りたがらず、しかも鳳台と縁を切ると新聞に発表したという。鳳台は用が済んだら北平を離れる。まず上海に戻り、その後香港へ行く予定だ。あるいはイギリスへ行くかもしれない。戦争が終わったら戻るつもりだ。鳳台は公演のつもりで上海へ行こうと細蕊を誘うが、上海で長居は無理だし、イギリスで公演しても ”馬の耳に念仏” だと断られる。いつかは別れの時がくる。二旦那は安心して極楽浄土へ行ってと細蕊が冗談を言う。
その後、鳳台は坂田大佐に会っていた。留仙洞のトンネルの存在を知った坂田大佐が別の輸送路を求めてくる。時間が短縮できて匪賊も出ないのに、なぜ秘密にしていたと鳳台に詰め寄る。留仙洞は整備が終わったばかりだ。万一のことがあっても償えない。坂田大佐は、物資と部下を匪賊に持って行かれたと状況を説明する。鳳台に解決してほしいのだ。鳳台は前回、命の危険をも顧みず手伝った。それなのに、また命懸けで行けという。そこで鳳台は、既定の道を使わなかったせいで物資を盗られたことをバラすと坂田大佐を脅す。すると大佐は態度を改め、支払いを倍にすると申し出る。信義は守ると大佐は言うが、鳳台は日本軍のせいで名誉を傷つけられ、実の妹にも縁を切られてしまった。鳳台はこれが最後だと告げる。これが済んだら上海に帰るから邪魔をするなと警告する。
細蕊が義兄に大金が入った鞄を差し出し、大事を成し遂げるよう思いを託す。細伢子も大人になったと感慨深く言う義兄。門を出ていく義兄たちと入れ違いで鳳台が訪ねてくる。鞄の中身が気になる鳳台に、お金だと告げる。冗談だと思っていた鳳台だが、細蕊は有言実行の人だ。鳳台はまた物資を運ぶと細蕊に伝えに来た。新しい演目には間に合わないと残念そうだ。細蕊は特別に一部見せることにする。
後日、芝居を見に来た鳳台。水雲楼一座が整列して出迎える。芝居を観ている十九は、戦がなければ「趙飛燕」より人気が出ただろうと惜しむ。蔡鍔将軍の役者は徹夜で台詞を覚えたと小周子がこっそり教える。
♪一途にお慕いしております この幸せな時が続きますように♪
順調に歌っていた商座長だったが、突然棒立ちになる。座員たちがまた耳が聞こえなくなったかと心配する。何が起こったと案じる座員たちをよそに、腹が減ったと舞台を降りて鳳台を連れ出す商座長。小鳳仙が将軍と逃げたと座員が言う。
やっと自分の愚かさに気づいたと細蕊が本心を明かす。今まで芝居に本物の金銀宝石を使っていたが、虚構の世界に本物を使う必要はなかった。その結果、盗まれて馬鹿を見た。金も貯まり名も上げたが、工夫しても観客は俗っぽい芝居を好む。自慢の作はあまり受けないと愚痴を言う細蕊に、杜洛城とつきあって文人っぽくなったと鳳台が皮肉を言う。芝居に金を払ってもてはやすのも観客。根も葉もない噂や中傷を聞いてけなすのも観客だ。商先生が演じる楊貴妃や杜麗娘は好きでも商細蕊には遠慮がない。石像を壊せば影がなくなる。観客は愚かだ。
第46話 通い合う心
役者としての思いを吐露した商細蕊は、程鳳台のために歌い、2人は絆を確かめ合うのだった。一方、古大犁は出産を間近に控えていたが、日本兵への復讐に燃える。程鳳台は曹貴修から告げられた日本軍への作戦が、いかに過酷なものかを知る。新演目の衣装が届かず気をもむ商細蕊は、范漣から衣装作家を紹介されるが、条件に激怒する。
商細蕊は役者を素晴らしい生業だと考えてきた。だから自分を支えてくれる観客に尽くそうと心がけてきた。しかし、この半年でさまざまなことが起こり、心無い噂をする愛好家に嫌気がさした。そう聞いた程鳳台は、本気で応援している者が悲しむと口をはさむ。鳳台の心情を察した細蕊は、役者は最高だと言い直す。
後日、絡子嶺に来た鳳台。グーダーリーは来月にも生まれそうな腹をしている。鳳台は人質と荷を買うと相談を持ち掛けるが、奪った荷を返す気はなく人質は殺すという。日本軍は絡子嶺を通るたびに匪賊を殺す。ダーリーは敵を討って土下座させる気だ。明日子供を産むと気勢をあげる。
翌日になり、あわただしく用意が始まり、鳳台に説明する。仲間と日本軍の荷は倉庫の中。出産後に赤子を連れて曹貴修の所へ行き、準備は整っていると伝えろ。そうこうしているうちにダーリーの陣痛が始まる。ダーリーはわが子に早く生まれてきやがれと悪態をつく。
無事生まれると、赤子を鳳台に託す。道中で赤子が死んでも曹貴修には言うなとくぎを刺す。でも生き延びた時は必ず迎えにいくと約束する。赤子を抱いて来た鳳台に、予定日はもっと先だと曹貴修が驚く。しかし、わが子を見て顔がほころぶ。生まれた日時と名が書かれた紙には ”12月25日 酉の刻 古大虎” とある。名づけの才能が皆無だと苦笑いする。
この後の計画を伝える曹貴修。あとは九条に会って忠誠心を見せるだけだという。押さえた日本軍の荷が手荷物になる。欺くには完璧な芝居をする必要があり、体にかすり傷もなく北平へ戻れば坂田大佐が信じない。貴修は手加減はすると言うが、鳳台は多少の痛みは我慢しなければならない。
一方の水雲楼は、衣装どころか食糧さえ届かない状況だ。もうすぐ新演目「鳳仙伝」の看板を出すが、衣装が間に合いそうもない。水雲楼に顔を見せた范漣。衣装が届いていないと知り、すぐに劇楼へ来たそうだ。婚約者の盛子晴が衣装作家をしているから力になれるという。そして細蕊に頼みがあると漣が切り出す。相手は鳳乙のことを知らないから黙っていて欲しいという。鳳乙の継母となる女子に事実を隠せと言われた細蕊は、その女子には絶対に衣装を頼まないと漣を追い出す。
後日、細蕊に婚約者を紹介しに来た漣。漣は全てを話していた。鳳乙の存在は子晴には些細なことで、結婚したら引き取って育てるという。漣はこれまでいろいろな問題を起こしてきたが、周りの助けがあり道を踏み外さずに済んだと気付いた。漣は家庭のことを決める時は子晴に従うと約束したという。
細蕊は漣を見直し、衣装を頼むことにする。早速下絵をみせる漣。注文したものにも劣らない良い衣装だ。
小周子がいつ「鳳仙伝」の公演を始めるのかと師匠に尋ねる。衣装も完成し、みんな台詞も覚えた。愛好家もしびれをきらしている。しかし、師匠は二旦那の帰りを待つと言う。じきに戻ると信じて。
鳳台は体調不良だが、留仙洞へ向けて移動を始める。しばらくすると、九条少将の軍営があると知らせが入る。あと少しで到着だと鳳台は皆を鼓舞するが、フラフラと落馬してしまう。九条少将の軍営で診察させると、回復まであと2日はかかるようだ。爆破の音で飛び起きる鳳台。曹貴修が奇襲をかけてきたと日本兵が知らせる。
九条少将が鳳台を迎え入れる。九条が知恵を借りたいと切り出す。曹貴修が猛追してきているので、経路を変えて貴修を撒きたいのだ。鳳台は険しい山道や大木が生い茂っている所が多く、大砲や貨物を運ぶのは無理だから、元の計画を変えないほうがいいと助言する。すると、九条はなぜ留仙洞を通る経路を提案しないのかと、坂田に聞いた留仙洞の件を持ち出してくる。ではお聞き及びでしょうと、鳳台は施工後に通っていない旨を伝える。しかし九条は何かあっても責任は問わないと断言し、留仙洞を使うことにする。
留仙洞に到着した一行。九条の指示で鳳台が先陣を切る。兵士が続き、隅々を点検する。曹貴修はまだ爆弾を仕掛けていない。洞窟は安心だと兵士が九条に報告する。トンネルを進む一行。途中で鳳台はせき込んで、兵士に先に行くよう促す。ここでようやく爆弾が仕掛けられる。合図を送る貴修。匪賊が攻撃をしかける。鳳台に逃げるよう促す者の手にはマッチが握られている。鳳台は爆破される中を必死で逃げる。
第47話 唯一無二の君
程鳳台の戻りを今かと待ち続ける商細蕊。北平時報の薛社長からようやく程鳳台の状況を聞いた商細蕊は、血相を変えて程家に駆けつける。しかし、程鳳台の姿を見ることは許されず、程美心から責められた商細蕊は心の傷により発作を起こす。憤る杜洛城は程美心に抗議の電話をかける。程美心はますます対抗心を露わにし…。
トンネルが爆撃される。激しい爆弾にグーダーリーが巻き添えになる。鳳台は家族を思い必死で逃げる。
水雲楼では商細蕊が程鳳台の帰りを待ちわびていた。いつもなら戻る頃だが、手紙すら届かない。独り言を言う師匠を案じる小周子。小周子もそろそろ年季明けだ。以前から愛好家には ”小周先生” と呼ばれている。もう付き人と衣装箱を持っていい頃だ。年季明けの宴を開くことにする。
周香蕓を祝いに王先生や劉先生たちがやって来た。梨園では久々の吉事だ。名役者が増えたとお祝いする面々。周香蕓という役者は細蕊が手塩にかけた名役者だ。ここまで育てたのは細蕊だが、今後は先生方の力添えが不可欠だと売り込む。自分の歌を過小評価する周香蕓に、細蕊は水雲楼の看板役者として胸を張れと勇気づける。次に梨園の最高峰になるのは周香蕓だ。周香蕓は梨園の最高峰である細蕊の弟子で、その真髄を受け継いだはずだから、自分を卑下するなと励ます。
薛社長が細蕊に会いに来た。二旦那が戻ったことをまだ知らない細蕊に、重傷を負っていることを知らせる。下手をするともう会えないから、早く行くよう急き立てる。
程美心に商先生が来たと耳打ちする韓総監。細蕊のせいで弟が重傷を負ったと思っている美心は、叩き出してやる勢いだ。程家に乗り込んだ細蕊が使用人たちを振り払う。美心は怒りを晴らすために、二旦那に一目会いたいと願い出る細蕊を騙すことに。棺を見せ、先ほど息を引き取ったと告げる。そして、細蕊の「戦金山」が原因で日本軍に協力するはめになったと細蕊を責める。弟は水雲楼と細蕊を支えて梨園の最高峰にさせたのに、細蕊の無鉄砲な行いが弟を殺したと言い放つ。膝から崩れ落ちる細蕊。そして泣き叫ぶ。心配ないと突き放す美心だったが、細蕊は倒れてしまう。蒋夢萍が「細伢子」と呼びかける。二旦那の命はまだあるからきっと持ちこたえると語りかける。パッと起き上がる細蕊。走って棺の蓋を開けに行く。そこに程鳳台はいない。辺りを見回し、程鳳台をどこに隠したと湘児に詰め寄る。そして二旦那!と叫んで走っていく。その様子に夢萍は、幼い頃に根付いた病が再発したと心配する。あのままでは何をするか分からない。そう聞いた湘児は、水雲楼の弟子たちに座長を探してもらうことにする。美心は棺を見せただけで、急に泣いたり叫んだりする細蕊は理解不能だと言い逃れする。
商座長は香山への道の途中で見つかった。杜洛城が背負って水雲楼へ運ぶ。一言も発せず様子がおかしい。程美心はひどすぎる。二旦那が死んだとしても細蕊のせいではない。逆恨みもいいところだと洛城が批判する。立ち上がる細蕊。香山で罪を償うと言い出す。二旦那は自宅で寝ていて山にはいないと言っても、二旦那が待ってると言って聞かない。止める洛城に噛みついて部屋から出ていく。座員たちが抱えて部屋へ戻し、オンドルの上で押さえつける。叫び声をあげる細蕊。十九は商座長に馬乗りになり、「細伢子」と声をかけて何度も平手打ちする。少し落ち着いた商座長に、二旦那を傷つけたのは奴らで、座長は何も悪くないと声をかける。腹が減ったと呟く座長。食べたらまた捜すと言う。心に響いていないようだ。また叫び出し、すごい力で追い払おうとする。細蕊は幼い頃、三更劇を見て心に傷を負った。夢萍が去った時もひどい発作が起きた。三更劇とは何かと質問する洛城。この状況で聞くなと十九が声を荒げる。治るには長くて半月、短くて半刻ほどかかる。洛城は早く医師に診せるべきだと言うが、病院に行けば噂が立つ。座長は落ち着けば普通になるから、それまで順番で押さえこめばいい。細蕊がまた叫び始める。目を覚ましてと座員たちが呼びかけ続ける。
夜になってようやく落ち着いた商座長。病の再発が程家のせいでないとしても、顔を傷つけた責任から免れることはできない。洛城は私が恨みを晴らすと出ていく。程美心に電話をかける洛城。明日の新聞で全て暴露すると脅しをかける。曹万鈞はそもそも日本軍と結託してる。程家が目をつけられたのは当然の成り行きだ。それなのに商細蕊に罪を着せた。明日、商先生を連れて程鳳台に会いに行くと電話を切る。そして、今度は薛社長に電話をかける。
程家に車が列をなす。商先生の一行が来たと知らせを受けた美心は意を決する。使用人を庭で待機させ、一行を通す。湘児は手荒な真似はしないよう念を押す。
鳳台の寝室で医師が手当てをしている。鳳台は洞窟に生き埋めになりかけたが、幸運にも救出され、その時は意識があった。しかし、医者はおらず、北平へ帰る途中で容態が悪化した。もう2週間経つがまだ目覚めない。程家には機器があり、医師や看護師もいる。病院と遜色ない。しかし、湘児は西洋医は信用しない。彼らが有能ならとうに目覚めているはずで、夫は魂を置いてきたのかもしれないと言い出す。
細蕊が遠くから泣きそうな顔で覗き込む。そして跪き、すまないと頭を打つ。洛城は跪く細蕊を立たせ、見舞いにも来て情義は尽くしたと帰ることにする。しかし、細蕊は洛城を振り払い、これで回復するのかと点滴の管を指さす。医師は重湯のようなものだと答える。薬湯を口から入れたほうが有効だが、鳳台は何も呑み込めない状態だ。細蕊は湘児の所へ行き、厨房に人参があるか尋ねるが、細蕊の態度が気に入らない湘児は取り合わない。走って寝室へ戻る細蕊を湘児が追うと、鳳台の床の上に座り込んでいる。警護の者を呼ぼうとする美心に、商先生を傷つけた者は明日の新聞に載ると薛社長が警告する。
程家の屋敷の外で待つ水雲楼の座員たち。出てきた薛社長に座長の様子を尋ねる。二旦那はひどい傷で横たわっていると知らせ、商先生は二旦那が目を覚ますか亡くなるまでここを出ないだろうと告げる。伯牙と子期のようだと十九が言う。子期が死んで伯牙は琴を壊した。小周子は不安になる。
鳳台の部屋では漣が細蕊に詫びていた。細蕊と鳳台は実の兄弟より親しく、互いのためなら命も惜しまない。重傷の鳳台のそばにいたい気持ちも分かる。しかし、鳳台は傷を負っており、姉たちに細蕊を許せとは言えないと伝える。何も言わない細蕊。鳳台は半月もこの状態だが、いつまでここで付き添う気かと尋ねる。細蕊はただ人参の薬湯を催促する。漣の言う通りだと洛城が同意する。鳳台にもし何かあれば程家は細蕊に責任をなすりつけるかもしれない。
人参の薬湯はまだかと案じる細蕊。この状態では飲めないと医師が忠告する。すると細蕊は湘児が持っていたお茶を取り上げ、鳳台に飲ませて見せる。江湖の古い方法で死人でも飲ませられるという。湘児は急いで人参と棗、龍眼の準備をさせ、煎じることにする。細蕊は洛城に帰るよう促す。程家は女ばかりで細蕊が居るだけでも迷惑なのに、洛城までいては悪いという。洛城の心遣いに感謝を述べる細蕊。礼を言われたことがない洛城は、二旦那の魂が乗り移ったかと驚く。洛城は非礼を許してほしいと美心への伝言を漣に頼み、帰ることにする。
北平時報に洛城の姿があった。細蕊は鳳台の家から何日も戻らないと心配する。洛城は鳳台が死んでもどうでもいいようだが、そうなれば細蕊が立ち直れない。日本人の奥様が来たと知らせが入り、洛城は北平時報を後にする。日中文化交流会を行うと妻が知らせる。薛社長にも協力してほしいと頭を下げる。社長は断りを入れるが、夫婦は栄誉も屈辱も共に味わうものだと押し切られる。
第48話 憂い
小周子は程鳳台につきっきりの商細蕊に、水雲楼崩壊の危機を訴える。一方、范湘児は献身的に程鳳台の看病を続ける商細蕊に、いつしか心を許すようになっていた。その矢先、程鳳台の容体が悪化するが、治療薬が手に入らず八方塞がりとなる。そんな程鳳台の様子を見に来た坂田大佐を、商細蕊は憎悪に満ちた目でにらみ…。
妓楼で深酒をする杜洛城。難しい顔をした社長が、日中文化交流会に参加するよう日本軍からの伝言を伝える。洛城に拒否されると分かっていた社長は、断るなら北平を出るよう忠告する。
小周子が程家を訪ね、商座長に近況を聞かせる。日本軍が洛城の存在を知った。しかし、洛城は親日の文章を書くことを断り、北平を離れて香港に行く。座員は混乱しており、師匠が戻らねば一座は崩壊してしまう。小周子は助言をくれるよう師匠に願い出る。
もうすぐ16歳になる小周子。細蕊が義父を亡くしたのはそれくらいの年齢だった。義兄も家を出て、今日まで水雲楼を支えてきた。細蕊は袖から水雲楼の印章を出し、小周子に渡す。それは水雲楼にとっての伝国籤だ。余裕がない細蕊は、水雲楼が解散しても責めないと小周子に管理を任せる。仕方なく印章を受け取った小周子は、部屋を出る前に跪き、一拝する。
数日留守にしていた薛社長が家に戻ると、妻たちが大騒ぎしている。日本人の千代が実は工作員でお義父様とも寝たという。社長はそう言った妻をビンタし、千代に無礼を働いた者はこの屋敷から出ていくよう命じる。
重い空気が流れる水雲楼で除永年を引き止める座員たち。商座長は耳が不自由なときも舞台に立ったのに、二旦那のために役者を辞めるのが許せないようだ。除永年は座長が戻るのを待つのは限界だから、北平を出て自分の一座を作ると同志を求める。そこに小周子が戻ってくる。一座を託された小周子は意を決し、契約の途中で去るのなら違約金を払えと告げる。師匠がくれた一座の印章を見せ、払わないなら役所に訴えると警告する。除永年は小周子を殴って印章を奪う。すると小周子は棒を手に取り、商家の棍法で除永年を討ち破る。印章を奪い返した小周子は、一座から座長の代わりと認められる。
師匠に差し入れを持ってきた小周子。好物のすね肉もあると見せるが、細蕊は鳳台から目を離そうとしない。小周子が二旦那の顔色が良くなったと言うと、生気が戻ってきたと細蕊も相槌を打つ。急に庭へ出て何かを探し始める師匠。二旦那はコオロギが好きだから捕まえるという。今の季節では見つからないと小周子が言うと、師匠はハ~と息を吐き、寒くなったなと呟く。師匠は小周子に帰るよう促し、明日も来るなと言い残す。
鳳台の顔の横で口笛を吹く細蕊。そっとしておいてと湘児がお願いするが、うるさくすれば起きると口笛を吹く。細蕊は棺を見た後どこへ行ったか忘れたが、あの棺は邪気払いに使うものだと気づいたと語る。あの日の義姉はやりすぎだと湘児は言うが、細蕊は日本軍を怒らせたのは自分で、程家の者に恨まれても無理はないと理解を示す。二旦那の症状に変化があった。湘児が医者を呼ぶ。傷が更に悪化した時は脚を切断すると医者が伝えるが、万一の時は五体満足で送り出したいと湘児は拒む。毎日ペニシリンを投与すれば傷の悪化は防げると医者は言うが、ペニシリンは市場に出ていない。
一方で、九条少将の遺体を見つけらず、怒りを露わにする坂田大佐。当時、匪賊と曹貴修に前後を塞がれ、一行が留仙洞に入ったら爆発が起きた。坂田大佐は洞窟に罠があったと疑う。しかし、兵士たちが鳳台と偵察した時に異常はなかった。鳳台も大けがをして危篤状態だが、疑い深い坂田大佐は程家に行って確かめることにする。
日本軍の医者が鳳台を診る。炎症が肺にも広がっているという医者の見立て。坂田大佐は鳳台の我が国への貢献を忘れないと湘児に感謝を述べる。そこへやってきた細蕊。医療用のはさみを手にし、坂田の背中を刺す。銃を落とした坂田に再び襲い掛かる。お腹が大きい夢萍が止めに入るが、振り払われて出血してしまう。細蕊を銃で撃とうとする兵士たちを坂田が制止し、細蕊は連行される。
商細蕊を牢獄に入れ、拷問にかけた非を責め立てる雪之誠。商細蕊は梨園の名優で北平では声望が高く、情勢が安定してきた時に民衆の不安をあおる必要はない。軍部では坂田の方が階級は上だが、雪之誠は階級など気にしない。坂田は一生九条家の臣下だ。そこに鳳台の検査の結果報告が入る。重症感染症に加え、肋骨が折れ内臓に傷を負っている。脚は治療できるが一生障害が残りそうだという。ケガは演技ではないと判断した坂田は、約束通り薬を渡す。
牢獄に入れられた細蕊が目覚める。看守に時間を聞くともう10時すぎだ。細蕊は薬の時間だから程家に帰りたいと泣きだし、牢から出せと叫びだす。隣の牢獄にいた老弦人が目が覚まし、商先生だと気が付く。細蕊は二旦那に薬を飲ませたいとドアを叩いて暴れている。老弦人が京胡を弾き始める。何の音かと耳を澄ます細蕊。京胡に合わせ、商先生が歌い始める。
♪~この世の全てには定めがある その定めには何人も逆らえぬ~♬
老弦人は、人生の最期に商先生の伴奏ができて悔いはないと言い残し、息を引き取る。
雪之誠が牢屋へ駆けつける。足音を聞いた細蕊は立ち上がり、小窓から覗く。出してくれるのかと尋ねる細蕊に首を振る雪之誠。それなら雪之誠を人質にして逃げると細蕊は言うが、坂田は雪之誠が死のうが気にも留めない。そう聞いた細蕊は ”助けてくれたら商細蕊が恩に着る” と、ある人物に伝言を頼む。雪之誠は必ず伝えると約束し、看守に細蕊に手を出さないよう言い残す。
商先生が敵を刺したらしいと話す客。大佐を刺して捕まり、牢の中で仕置きを受けていると噂する。親日なんてでたらめだと訴える客もいる。店主は何年も通ってくれた商先生を親日だと信じ込んでしまったと悔やむ。他の客も商先生を悪く言ってしまったと後悔する。噂によると日本軍の悪行について海外の新聞も報じているらしい。庶民を殺し、略奪まで行ったと世界中が批判している。文化人の迫害という記事には商先生の写真も載ったそうだ。
電話の対応に追われる坂田大佐。また商細蕊を開放しろと要求があった。北平が占領されてから名流たちは日本軍と関わらないよう隠れていた。それなのに商細蕊という役者のために次々と電話をかけてきては開放しろと繰り返す。義弟の范漣があれこれ手を回していると部下が報告する。
漣は細蕊を助けるため、金の力でコネを作っていた。だが相手は手強く、漣の小銭程度では腹を満たさない。湘児に泣きつくと、運送業の金を借りてもいいような口ぶりだ。湘児は、あの役者が捕まったと鳳台に話しかける。敵討ちだと言って大佐を刺し、牢獄送りになった。きっと悲惨なことになっているだろう。助けに行かないなんてひどい人だ。眠ったままずっと悩ませる気かと訴えかける。
椅子に縛りつけられてる細蕊。服には拷問された跡がある。誰の指示でやったと兵士が尋問する。程鳳台の敵討ちは自分の意志で行ったと答える細蕊。鳳台は水雲楼の出資者であり、心腹の友でもある。その鳳台に無理に荷を運ばせ、ケガを負わせた復讐だと坂田を睨む。坂田は細蕊を尋問室に連れていくよう部下に命じる。
医者が鳳台を診るが変化はない。熱は下がったのに目覚めない。春杏は湘児にまじない師を呼ぶよう提案する。二旦那の魂を呼び戻してもらおうという。ものは試しだと湘児が同意する。神頼みをはじめたかと医者は呆れる。
第49話(最終話) 究極の絆
商細蕊は坂田大佐から、程鳳台の治療薬と引き換えに、歌舞伎を舞うよう迫られる。雪之誠は商細蕊に突きつけられた無情な選択に胸をえぐられるのだった。一方、程家では程鳳台の魂を呼び戻すまじないがなされようとしていた。程鳳台の息子に代わり、屋根の上で歌う商細蕊。その声は街中に響き渡る。しかし、商細蕊の喉は限界に達し…。
坂田大佐の所へ連行された商細蕊。程鳳台のペニシリンと引き換えにもう一度歌舞伎を舞うよう命じられる。商細蕊を困らせるなと雪之誠が間に入る。坂田大佐に叱咤された雪之誠は、自分が前線に行くと着物を投げつける。九条家の男である以上他に道はない。これは定めだから最後は兄のように戦場で死ぬと言い放つ。但し、商細蕊は巻き込むなと懇願する。吉報だと喜ぶ坂田大佐に、今後は商先生を困らせないよう念を押す。薬を受け取った細蕊は無言で部屋を出る。部屋を出るや走りだす細蕊。薬を届けるため走り続ける。その速さは人力車より早い。
まじまい師に最後の望みを託した程家。まじまい師が手順を伝えるが、小さな子供には無理だろう。細蕊は自分がやると屋根に上り、歌いだす。
♪春の風が靄もやを吹き払う 窮地にある時 救いの神に出会えた♬
細蕊の歌声が街中に響く。辺りが暗くなっても歌い続ける細蕊。皆が下りてくるよう言っても歌うのを止めない。駆けつけた小周子が湘児に跪き、師匠を止めるよう頼み込む。役者は喉の商売だ。これでは喉がもたない。下りるように言っても聞かず、細蕊はひたすら歌い続ける。
夜が明けた。目が覚めた鳳台が涙を流している。二旦那が目覚めたと大声で知らせる春杏。歓喜する一同。小周子は早く下りるよう師匠を促す。疲れ果てた細蕊は鳳台の部屋に目をやり、「帰ろう」と小周子に囁く。小周子の支えなしでは立っていられない細蕊に、「細伢子」と蒋夢萍が呼び止める。細蕊の体を気遣う夢萍に「師姉」と細蕊が言葉をかける。何と呼んだ?と驚く夢萍をもう一度「師姉」と呼ぶ。嬉しそうに夢萍が頷く。細蕊は夢萍の赤ちゃんに目をやり、子供を抱きたいとお願いする。細蕊は手を衣で拭き、抱っこする。おとなしくて師姉に似ているから女の子だね、と声をかける。双子のもう一人も抱きかかえる。元気な男の子だ。これから大変だと言葉をかけ、夢萍に微笑んで帰ろうとする。夢萍は細伢子を呼び止め、自分を憎んでいるかと尋ねる。憎いのは永遠の別れだと答える細蕊。夢萍は細蕊に抱きつき、頭をなでる。「許してくれてありがとう」と涙を流す。
杜洛城からの手紙が薛社長に届いた。”貴殿の資料は国際世論に一石を投じた 家族と離れた人たちに代わり謝意を示す 貴殿の奥様方は私が香港でしっかりお世話している 支社の開設は間近 再会を楽しみにしている”
松葉杖を使って歩く鳳台。これまではあちこち行っては湘児を心配させたが、これからは安心だ。漣は鳳台が昏睡状態の時、細蕊が坂田大佐と揉めて牢にいたと伝える。もう解放されたが、日本軍はやむなく釈放した。次に捕まったら牢では済まない。そこで湘児は切符を細蕊に渡すよう頼む。細蕊は鳳乙の叔父だし、鳳台の命の恩人でもある。一緒に香港に連れていこうと提案する。細蕊と一緒にいて、情に厚い人間だいうことが分かったのだ。春杏はあの役者と一緒に香港へ行くのかと戸惑いを隠せない。湘児は二旦那が意識不明の時、もう助からないと覚悟した。命を懸けて敵を討とうとは思わなかった。この点だけでも程家は商細蕊を一生養っていいという。
受話器を置く細蕊。迷ったあげくもう一度かけようとすると電話が鳴る。受話器を上げると鳳台からだった。今にも泣きそうな細蕊。二旦那と声をかける。ひどい声だと言われ、塩辛いものを食べて声がかすれたと誤魔化す。鳳台がためらいがちに、何日かして治ったら会いに行く伝える。「鳳仙伝」の初演には間に合うと答える細蕊。鳳台は何か伝えようとするが、会いに行った時に話すと受話器を置く。
鳳仙伝の垂れ幕が掛けられる。客が券を買いに殺到している。久しぶりに商先生が見られると盛り上がりを見せる。
会場内には花籠が次々と運びこまれる。鳳台からは梨園の最高峰に花籠10対が届けられる。劇楼に現れた鳳台に声をかける客たち。水雲楼の座員たちも二旦那を歓迎する。ゆっくりと奥へ進む鳳台。商座長の楽屋へ到着する。時間がないと鳳台が話を切り出す。
鳳台が急いで北平を発つのは拘束を恐れているからだ。日本軍は信用できない。坂田はきっとまた難癖をつけるだろう。鳳台は香港で映画会社を作るつもりだ。香港はイギリスの管轄で日本は干渉できないから細蕊の映画も撮れる。一緒に行こうと細蕊に切符を渡す。声がまだ枯れている細蕊は歌えなくなったら香港へ遊びに行くと告げる。鳳台は北平を離れたら一座の用事は出来ないと水雲楼の株を商座長に返す。そして、今後は勢いで事を起こさず、日本軍には関わるなと忠告する。鳳台は前に曹司令官がした命と芝居の質問をするが、時間だと急かされる。答える時間が無い細蕊は「お元気で」と手を出す。鳳台は手袋を外し、握手する。水雲楼との思い出を振り返る鳳台。座員たちが見送る中、これでお別れかと十九が尋ねる。そうだなと頷いて劇楼を去る。
♪100年の離別も ほんの束の間のこと♬
と歌う商座長の声が聞こえる。鳳台が涙を流す。
芝居が終わった。細蕊は走って北平駅へ駆け付ける。
その頃、鳳台は細蕊が来るのを待っていた。湘児がそっと出発を促す。そこに細蕊の姿はない。
同年、中国の人々は長く厳しい日本との対峙の時を迎えた。程鳳台は杜洛城、兪青らの刊行物に協力し、愛国活動に貢献した。
~完~