君、花海棠の紅にあらず|京劇シーン『長生殿』あらすじとドラマシーンの照らし合わせ

華流ドラマ「君、花海棠の紅にあらず」第6話でストーリーの軸になっていた京劇の演目『長生殿』について調べてみました。

京劇の演目『長生殿』とは?

まずは「君、花海棠の紅にあらず」のワンシーンから見てみましょう。商細蕊が演じた楊貴妃を観て、衝撃を受けた程鳳台がこう回想します。

演目「長生殿」に誰もが自分の人生を投影する
私が目にしたのはやるせなさと妥協であり
運命に翻弄され 望まない人生を送る自分
かつての歳月と心の中の屈折
それを商が全て歌い上げた
『君、花海棠の紅にあらず』第6話より引用

 

この後『長生殿』について程鳳台と商細蕊が語り合うシーンも出てくるので、『長生殿』を理解していると話が分かりやすいです。

『長生殿』は昆曲の演目

『長生殿』昆曲の代表的な演目ですが、京劇でも演じられるようになります。

昆曲(崑劇)とは?
崑劇は京劇より古い演劇形式。どちらも中国の古典演劇の流派だが、発祥した時代と場所が違う。昔の地名から崑劇と言われる。

崑劇と京劇の見た目はほとんど同じ。違いは歌や節回しなど音の部分

長生殿』は楊貴妃と玄宗皇帝の愛を描いた戯曲です。史実が入り混じっていますが、唐代の『長恨歌』と『長恨歌伝』に基づいて描かれ、全50幕もある長編です。前半25幕で楊貴妃の入内からその自殺までが描かれています。


第一幕 口上
第二幕 はじめて恩沢を承くるとき
第三幕 権臣に賄賂をおくる
第四幕 春眠
第五幕 禊の遊び
第六幕 陰の噂
第七幕 恩寵
第八幕 黒髪を献上する
第九幕 再度のお召し
第十幕 疑わしき讖
第十一幕 天上の楽を聞く
第十二幕 楽曲を作る
第十三幕 権力の争奪
第十四幕 楽曲を偸む
第十五幕 茘枝を進貢する
第十六幕 霓裳羽衣の舞
第十七幕 巻狩
第十八幕 夜の怨みごと
第十九幕 御殿をさわがす
第二十幕 密偵の報
第二十一幕 浴室を覗く
第二十二幕 密かなる誓い
第二十三幕 潼関陥落
第二十四幕 謀反の報に驚く
第二十五幕 貴妃を葬する
第二十六幕 麦飯を献上する
第二十七幕 貴妃の妄執
第二十八幕 賊を罵る
第二十九幕 鈴の音を聞く
第三十幕 貴妃の悔恨
第三十一幕 叛軍を討つ
第三十二幕 貴妃の像に哭く
第三十三幕 神に訴える
第三十四幕 逆賊を刺す
第三十五幕 長安を回復す
第三十六幕 貴妃の襪を見る
第三十七幕 貴妃登仙す
第三十八幕 琵琶うた
第三十九幕 追善供養
第四十幕 仙界にて追憶す
第四十一幕 月を観て貴妃を憶う
第四十二幕 馬嵬駅でのお迎え
第四十三幕 貴妃を改葬する
第四十四幕 執り成し
第四十五幕 雨の夜の夢
第四十六幕 魂を覓む
第四十七幕 願いを叶う
第四十八幕 情を寄せる
第四十九幕 消息を聴く
第五十幕 重円

洪昇(こうしょう)(1645年-1704年)作。当時は明朝が滅び満州族に征服されたばかりでした。楊貴妃と玄宗皇帝の物語を通して、治世者が愚かで腐敗しているとどんな悲劇を招くか、民族の悲劇とその原因を訴えた作品です。

『長生殿』は清朝を代表する二大戯曲と称されています。もう一つは孔尚任の『桃花扇(とうかせん)』。

康熙帝は『長生殿』を高く評価していましたが、孝懿仁皇后の服喪期間中に上演してしまい、洪昇は不敬罪で告訴されました。

京劇の演目『長生殿』全体のあらすじ

楊玉環が玄宗皇帝に召されて貴妃になるところから始まります。


玄宗皇帝 – 唐の皇帝。
楊貴妃 – 玄宗の寵姫。名は玉環、前世は蓬莱の玉妃。
高力士 – 宦官。
永新、念奴 – 楊貴妃の侍女。
虢国夫人 – 楊貴妃の姉。夫は裴氏。
楊国忠 – 楊貴妃の兄で右相。
梅妃 – 江采蘋。玄宗の寵姫で楊貴妃のライバル。
李亀年 – 宮廷の楽人の長。
安禄山 – 軍人。
郭子儀 – 軍人。安禄山の軍と戦う。
陳玄礼 – 軍人。右龍武将軍。
王嬤嬤 – 馬嵬で酒屋を営む老女。楊貴妃の足袋を発見し、持ち帰って客寄せに使う。
李謩 – 楽人。
楊通幽 – 道士。

玄宗は楊貴妃を寵愛し、楊貴妃の兄・楊国忠は高官に、3人の姉妹も高い地位が与えられ、楊一族は栄華を極めます。

それまでの寵姫であった梅妃は冷遇されます。一時、梅妃に寵愛を戻しますが、楊貴妃との愛を再確認し、七夕の夜、長生殿で生まれ変わっても夫婦になると誓いをたてます。

玄宗皇帝は楊貴妃を喜ばせるため、楊貴妃の好物の茘枝(レイシ)を遠路はるばる運ばせます。新鮮な茘枝を届けるためには、道中に人命を奪おうが田畑を荒らそうが気に留めません。

政務をおろそかにし、楊国忠と安禄山をひいきして、やがて安史の乱が起きます。その乱から逃れる途中の馬嵬坡(ばかいは)で追い詰められ、最愛の楊貴妃を亡くすことになります。

安史の乱が平定され、玄宗は長安に戻りますが、楊貴妃のことが頭から離れません。

悲しさに耐えかねた玄宗は、楊貴妃の魂を探すよう、道士を蓬莱山(ほうらいさん)へ送ります。織女は玄宗を憐み天上に上げ、2人は月宮でめでたく再会できたという物語です。

京劇の演目『長生殿』第25幕のあらすじ

どうか 陛下 私などお捨てになり
国をお守りくだいませ
『君、花海棠の紅にあらず』第6話より引用
君、花海棠の紅にあらず 長生殿

『君、花海棠の紅にあらず』第6話

このシーンが出てきた時、『長生殿』の内容を知らなかったので、訳が分かりませんでした。どうやら『長生殿』第25幕のワンシーンのようです。

第25幕「楊貴妃 馬嵬坡に死す」あらすじ

大勢の兵士たちが「楊貴妃を倒せ」と叫ぶなか、楊貴妃が玄宗に言います。「陛下の深い愛は我が身がなくなろうとも充分満たされます。兵士を抑えるため自ら刃を向けることをお赦しください。陛下が無事に蜀の地に行かれるなら、私はこの世にいなくとも、生きて富をするようなもの」

玄宗は、楊貴妃がいなければ皇帝の地位も四海の富も意味がないと必死に止めます。国が滅びようと楊貴妃を守るつもりですが、楊貴妃はすでに命を捨てる覚悟ができており、ここで生き延びてはもっと罪が重くなると、玄宗に国を守るよう懇願します。

高力士からも国を守り、楊貴妃との恩愛の情を断ち切るよう説き伏せられ、涙をのんで楊貴妃のするようにまかせます。

致し方なし
この梨の木が
この私 楊玉環が尽き果てる場になるでしょう
おいたわしや 陛下
この楊玉環は
陛下の恩情に感謝します
この先は 相見えることもありません
『君、花海棠の紅にあらず』第6話より引用
君、花海棠の紅にあらず 長生殿

『君、花海棠の紅にあらず』第6話

 

このシーンを観劇した程鳳台が商細蕊に感想を伝えます。

実にすばらしかった
本来なら楊貴妃は馬嵬坡で死ぬが
君の楊貴妃は死にも臆せず
美女が英雄を救うかのごとし
特に”百年の離別 須臾(しゅゆ)にあり”
”一代の紅顔君主のために尽きぬ”
この一節は最高だった
『君、花海棠の紅にあらず』第6話より引用
君、花海棠の紅にあらず 長生殿

『君、花海棠の紅にあらず』第6話

程鳳台が最高だと褒めた一筋は、『與蘇武詩』(李陵の作)にあります。「須臾」は短い時間という意味で、「離別在須臾」で、別れはまもなくやってくる、という意味になります。

京劇の演目『長生殿』を語るシーン

程鳳台は、商細蕊が演じるのは『長生殿』ではなく、『盛唐伝』と呼んだほうがいいと言っています。

「長生殿」は愛の物語だが
登場する2人の身分は特殊で
単なる愛の物語じゃない
人の生死だけでなく
国の存亡も関わる
盛唐の世を描き 悲哀を歌い上げる
未来への予言だ
『君、花海棠の紅にあらず』第6話より引用
君、花海棠の紅にあらず 長生殿

『君、花海棠の紅にあらず』第6話

 

これに商細蕊が答えます。

盛唐の世や悲哀というのはよく分かりません
ただ「長生殿」の一幕 ”貴妃を葬る” の前に
黒髪を献上” と ”再度のお召し” を演じます
それは楊貴妃が嫉妬し 玄宗を怒らせ
仲直りする物語ですが
演じながら考えていました
玄宗は楊玉環を手に入れながら
なぜ梅妃まで寵愛を?
舌の根が乾かぬうちに
愛の誓いを破るとは
玄宗はろくでもない
愛に命を投げ出した楊玉環が気の毒です
『君、花海棠の紅にあらず』第6話より引用
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『君、花海棠の紅にあらず』第6話

”貴妃を葬る”は第25幕、”黒髪を献上”は第8幕、”再度のお召し”は第9幕です。

『長生殿』のあらすじを知っていれば、この商細蕊のセリフも理解できますね。

京劇の演目『長生殿』のまとめ

  • 『長生殿』は古典演劇の演目
  • 楊貴妃と玄宗皇帝の愛の物語

いかがでしたか?京劇の知識がある方は、すんなりとドラマを理解できるのでしょうが、私には第6話はまるで分かりませんでした。

ちなみに「長生殿」という名の和菓子がありますが、崑劇の長生殿とは繋がりはないようです。

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参照:漢詩名句辞典 | 『長生殿 玄宗・楊貴妃の恋愛譚』岩城秀夫訳注

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